解約は「クーリング・オフ」と「中途解約」の2つ
10回コースを契約したお客さまから、「やめたい、残りを返してほしい」と言われる。受付で電卓を持つ手が止まる。いくら返すのが正しいのか。ここを感覚で決めると、後でもめます。まず、解約には性質の違う2つがあることを押さえます。
エステティックと美容医療のコース契約は、特定継続的役務にあたります。この契約には、クーリング・オフと中途解約という2つの解約のしくみが、法律で用意されています。どちらにあたるかで、返す金額の考え方が変わります。
| クーリング・オフ | 中途解約 | |
|---|---|---|
| いつ | 法定書面を受け取った日から8日以内 | 8日が過ぎた後、いつでも |
| 理由 | 不要(無条件) | 不要(将来の分をやめる) |
| お金 | 受け取った代金は全額返す | 店の請求に役務ごとの上限あり |
同じ「解約したい」でも、8日以内かどうかで扱いが分かれます。
クーリング・オフ ― 8日以内は無条件で全額
クーリング・オフは、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内なら、理由を問わず契約を解除できるしくみです。お客さまは書面または電子メールなどで解除を伝えればよく、店は受け取った代金を全額返します。違約金や手数料を差し引くことはできません。
起算日は「契約した日」ではなく、必要な記載のある書面を渡した日です。ここが前回の記事とつながります。書面に記載漏れがあると、この8日が始まりません。「もう8日過ぎた」と思っていても、書面が不備なら、お客さまはまだクーリング・オフできる状態が続きます。
書面の必須項目と渡すタイミングは「美容医療・エステの特定商取引法 ― 概要書面・契約書面の作り方」で扱っています。8日を正しく始めるには、まず書面の記載を満たすことが先です。
中途解約 ― いつでもやめられる、上限つきで
8日を過ぎても、お客さまは将来の役務について、いつでも中途解約できます。これは法律で定められた権利で、「途中解約はできません」と契約書に書いても、その特約は無効です。残りの回数をやめる申し出は、断れません。
そのかわり、店は一定の額までは請求できます。請求できる上限は、役務の提供を始める前か後かで変わります。
| 区分 | エステティック | 美容医療 |
|---|---|---|
| 提供開始前 | 2万円 | 2万円 |
| 提供開始後 | 提供済みの対価 +(2万円か契約残額の10%の低い方) | 提供済みの対価 +(5万円か契約残額の20%の低い方) |
役務ごとに政令で定められた上限。前払い金がこの上限を超えていれば、超えた分は返金します。
つまり、すでに施術した分の代金は受け取れますが、これからの分にかかる解約の負担は、上の小さな額までに抑えられています。高い違約金を取ることは、できません。
上限額を計算してみる
数字で見たほうが早いので、エステの例で計算します。
提供済みの対価 = 2万円 × 3回 = 6万円。契約残額 = 20万円 − 6万円 = 14万円。その10% = 1.4万円。2万円と比べて低いのは1.4万円。店が請求できる上限 = 6万円 + 1.4万円 = 7.4万円。お客さまが20万円を前払いしていれば、返金は 20万円 − 7.4万円 = 12.6万円。
計算の順番は決まっています。提供済みの回数の対価を出し、残額の割合と定額を比べて低い方を足す。これを書面とレジの運用に落としておけば、解約のたびに迷いません。美容医療の場合は、割合が20%、定額側が5万円に変わります。
書面に精算条項がないと、もめる
上限のルールがあっても、契約書面に精算の考え方が書かれていないと、解約の場面で「いくら返すのか」を一から説明することになります。お客さまは不信を持ち、店は計算の根拠を示せません。これが返金トラブルのいちばんの原因です。
- クーリング・オフは8日以内・無条件・全額返金、と書く
- 中途解約はいつでも可能、と書く(断れる、とは書かない)
- 中途解約のときの上限額の計算を、提供開始前・開始後に分けて書く
- 高い違約金や、解約を制限する特約を書かない(書いても無効)
書面の精算条項を上限に合わせておくと、解約は「もめごと」ではなく「手続き」になります。お客さまにも、その場で根拠を示して説明できます。
自店の段取り ― 解約対応を仕組みにする
解約は感覚で対応せず、毎回同じ手順に乗せます。最初の一歩は、自店の契約書面を読み返すことです。
- どちらの解約か確かめる:書面を渡した日から8日以内ならクーリング・オフ(全額返金)。過ぎていれば中途解約。
- 上限額を計算する:中途解約なら、提供済みの対価+(役務ごとの定額か残額の割合の低い方)。前払い金との差額を返金額にする。
- 書面の精算条項を直す:上限に合っていない違約金条項があれば、政令の上限に沿って書き直す。
- 運用を一本化する:解約の計算表と申出の受け方をスタッフで共有し、誰が対応しても同じ額になるようにする。
- 契約書面に、クーリング・オフ8日・無条件・全額返金が書いてあるか
- 中途解約の上限額の計算が、提供開始前・開始後に分けて書いてあるか
- 上限を超える違約金・解約制限の特約が残っていないか
- 解約の計算を、受付の誰もが同じようにできる状態か
こうした書面の整備と計算を、紙とレジの運用だけで毎回正しく回すのは負担が大きいところです。美容医療やエステに特化した電子契約のサービスには、概要書面・契約書面に解約と精算の条項を組み込んで発行でき、業界団体の監修を受けた書面に対応するものもあります。書面を見直すときの選択肢になります。
解約は、上限額のルールと精算条項さえ仕組みにしておけば、こわい場面ではありません。8日以内か、上限はいくらか。この2つを毎回同じ手順で確かめる。それが、返金でもめずにお客さまと別れる近道です。