どの契約に特定商取引法がかかるのか

脱毛やフェイシャル、痩身を回数券やコースで売っている。その契約書は数年前の雛形のまま。見直すべきか、まだ大丈夫か。判断の入口でつまずくオーナーは多いはずです。まず、対象になる線引きを押さえます。

エステティックと美容医療は、消費者庁が定める「特定継続的役務」に指定されています。指定された役務のうち、契約期間が1か月を超え、かつ金額が5万円を超える継続的な契約が、特定商取引法の対象です。単発の施術や、期間・金額がこの基準に届かない契約は対象になりません。回数券やコース契約は基準を超えやすく、ここで対象に入ります。

大事なのは、対象かどうかが店の大きさや業態の呼び方ではなく、契約の期間と金額で決まる点です。小さなサロンでも、3か月10万円の脱毛コースを売っていれば対象です。対象になると、書面の交付義務に加えて、クーリング・オフと中途解約のルールが一式でついてきます。

美容医療も対象に入っている

かつては議論のあった美容医療も、現在は特定継続的役務に指定されています。脱毛、しみ・しわ・たるみの軽減、脂肪の減少などの継続的な施術で、期間1か月超・金額5万円超なら、クリニックでも同じ枠組みがかかります。

概要書面と契約書面 ― 役割と渡すタイミング

渡す書面は2種類あります。順番と中身を取り違えると、書面を渡していても義務を満たさないことがあります。役割を分けて見ます。

書面渡すタイミング目的
概要書面契約を結ぶ前契約の概要を、契約前に説明・提示する
契約書面契約を結んだ後、遅滞なく確定した契約内容を書面で明らかにする

概要書面は契約前、契約書面は契約後。両方そろって初めて交付義務を満たします。

現場では「契約書面さえ渡せばいい」という運用になりがちです。概要書面は、契約を結ぶ前に渡すものです。カウンセリングで口頭の説明をしていても、契約前に概要書面として渡していなければ、要件を満たしたことになりません。

契約書面に書く項目

契約書面に必要な主な項目です。1つでも欠けると不備になり得ます。自店の書類と突き合わせてください。

契約書面の記載チェック
  • 役務(施術)の内容と提供方法
  • 役務の対価(総額)と、その支払時期・支払方法
  • 役務の提供期間、回数
  • クーリング・オフに関する事項
  • 中途解約(中途でやめるときの精算)に関する事項
  • 事業者の氏名・名称、住所、電話番号
  • 契約年月日、担当者名
  • 前受金(前払い)の保全に関する事項
  • 化粧品や美容機器など関連商品があれば、その内容
  • 特約があれば、その内容

項目は法令で定められています。書面の雛形は、消費者庁が示す記載事項や、業界団体・専門家の監修を受けたものを土台にするのが安全です。自作の雛形を長く使っているなら、まずこのチェックで抜けを探してください。

よくある不備と、その代償

記載漏れ ― クーリング・オフが終わらない

法律で決められた事項に漏れがあると、クーリング・オフの起算日が始まりません。「契約から8日が過ぎたから解約は受けない」と思っていた契約が、書面不備を理由に、いつまでも解除できる状態になり得ます。8日という期間は、必要な記載のある書面を渡して初めて動き始めます。

中途解約の精算が曖昧 ― 返金でもめる

消費者は、クーリング・オフ期間が過ぎた後も、将来に向かって契約を解除できます。このとき自店が請求できる額には、政令で定める上限があります。書面に精算の考え方が書かれていないと、解約のたびに「いくら返すのか」でもめます。役務の開始前か後かで扱いも変わるため、ここを書面で明確にしておく必要があります。

口頭の説明だけ ― 言った言わないになる

カウンセリングで丁寧に説明していても、書面に残っていなければ証拠になりません。記録が残らない運用は、トラブルになったとき自店の不利になります。

書面を電子化していいのか

2023年6月1日の改正で、概要書面・契約書面の電子交付が認められました。タブレットやメールでの交付ができますが、無条件ではありません。前提として、消費者の承諾を得ることが必要です。

承諾をもらう際には、いくつかのことを相手に理解してもらう必要があります。電子でなく書面でも受け取れること、データが受信した端末に記録された時点で書面が届いたことになり、その日からクーリング・オフの8日が起算すること、電子での受け取りは日常的にパソコンやスマートフォンを自分で操作する人に限られること。これらを欠いたまま、契約後にPDFをメールで送るだけ、という運用は、書面の交付と認められないことがあります。

電子化の本当のねらいは、記載漏れと保管事故を消すこと

紙の運用では、項目の抜け、控えの紛失、署名のもらい忘れが起きます。電子化は、ペーパーレスそのものより、これらの事故を仕組みで止められる点に価値があります。承諾の取得から記録の保管までを一連で残せると、書面まわりのトラブルは大きく減ります。

自店の段取り ― 判定から見直しまで

判断から手直しまでを順番にします。最初の一歩は、新しいツールの導入ではなく、自店の契約と書類を数えることです。

  1. 対象か判定する:自店のコース・回数券契約のうち、期間1か月超・金額5万円超に当たるものを洗い出す。1件でもあれば、特定商取引法の対象として書面の義務がかかる。
  2. 2種類の書面を確認する:契約前に概要書面を渡しているか、契約後に契約書面を遅滞なく渡しているか。片方しか無い運用になっていないかを見る。
  3. 記載項目を突き合わせる:このチェックリストと自店の書面を1項目ずつ照合し、抜けを直す。特にクーリング・オフと中途解約の記載を確かめる。
  4. 電子化するなら承諾を設計する:電子で渡すなら、承諾の取り方と、相手に伝える内容を手順に組み込む。専門家の監修や、書面要件に対応したサービスを使うと、記載漏れを仕組みで防げる。

美容医療やエステに特化した電子契約のサービスには、概要書面・契約書面・見積り・個人情報の同意書をまとめて発行でき、医療ローン(信販)の申込みまで連携できるものもあります。業界団体の監修を受けた書面に対応するものもあり、自店の書面運用を見直すときの選択肢になります。

自店がコースや回数券を売っているなら、まず対象を洗い出し、2種類の書面と必須項目を確かめる。それが、解約トラブルのリスクを外して安心して契約を続ける最短の道です。