回数券の代金は、その日の売上ではない
10回20万円のコースが売れた。レジに20万円が入る。気分はいい。ただ、この20万円は、まだ全部が売上ではありません。預かっているお金です。
会計では、前払いで受け取った代金を前受金として扱い、施術を1回提供するたびに、その回のぶんを売上に振り替えます。10回のうち3回を提供したなら、売上は3回ぶん、残りの7回ぶんはまだ預かり金です。この残り=未消化は、解約があれば返す可能性のあるお金、つまり店にとっての負債です。
ここを「売れたら売上」と数えてしまうと、手元の現金は増えても、実際には返すかもしれないお金を使っている状態になります。消化を正しく数えることは、売上を正しく見ることでもあります。
Excelで消化を追うと、どこでつまずくか
多くのサロンが、回数券の消化をExcelか紙の台帳で追っています。最初はこれで回ります。件数が増えると、同じところでつまずきます。
- 残りの回数や金額が、今いくらかをその場で出せない
- 施術したのに消化を書き忘れる、または二重に引く
- 有効期限が近い券を、誰も気づかないまま失効させる
- 担当者しか管理が分からず、その人が休むと止まる
- 解約のとき、未消化分の計算を間違えて、返金でもめる
とくに最後の解約は、痛手になります。未消化の残額が正しく出せないと、返す額を根拠を持って示せません。お客さまは不信を持ち、店は損をします。
消化を仕組みにすると、何が見えるか
消化を顧客管理の仕組みに乗せると、追いかけていた数字が、見るだけの数字に変わります。契約のときに回数・金額・有効期限を登録し、施術のたびに1回ぶんを消化する。これだけで、次がその場で分かります。
| その場で分かること | 使う場面 |
|---|---|
| 残りの回数・残額 | 来店時の案内、次回の予約提案 |
| 有効期限と、期限が近い券 | 失効の前に声をかける、来店をうながす |
| 解約したときの精算額 | その場で根拠を示して返金額を出す |
| 店全体の未消化の合計 | 預かっているお金の総額を経営として把握する |
数えるのをやめ、見るだけにする。これが消化を仕組みにする意味です。
消化と解約は、つながっている
消化の記録は、解約のときに効きます。中途解約の精算は、提供済みの対価は受け取り、残りの未消化分から法律で定めた上限を引いて返金する、という計算です。未消化が正しく出ていないと、この計算ができません。
提供済み=2万円×3回=6万円(これは売上)。未消化=残り7回ぶん=14万円(預かり)。中途解約で店が請求できる上限は、提供済みの対価6万円+(2万円か契約残額14万円の10%=1.4万円の低い方)=7.4万円。前払いの20万円から7.4万円を引いた12.6万円を返金します。消化が記録されていれば、この計算はその場で出ます。
上限額の考え方は「中途解約・クーリング・オフの実務」で詳しく扱っています。消化の管理は、その精算を正しく速くするための土台です。
期限と未消化の棚卸し
もう一つ見落としがちなのが、有効期限です。期限のある回数券は、切れる前にお客さまへ声をかけると、来店のきっかけになります。期限が近い券を一覧で出せると、失効による不満も、取りこぼしも減ります。
そして定期的に、店全体の未消化の残額を棚卸しします。これは「預かっているお金がいくらあるか」を見る作業です。未消化が大きいほど、提供が追いついていないか、期限管理ができていないサインになります。未消化の合計は、経営の数字として月に一度は見ておきます。
自店の段取り ― 未消化を数えるところから
仕組みを入れる前に、いまの状態を1度だけ数えます。最初の一歩は、未消化の残額を全部足すことです。
- 未消化を棚卸しする:いま有効な回数券・コースの、残りの回数と残額を全部出して合計する。これが預かっているお金の総額。
- 消化のルールを決める:いつ・誰が・どう消化を記録するか。施術の直後にその場で消す、を基本にする。
- 期限の見える化:有効期限を登録し、期限が近い券を一覧で出せるようにする。
- 解約の精算を定型にする:提供済みの対価+上限の計算を、誰が対応しても同じ額になる手順にする。
これを紙とExcelだけで毎回正しく回すのは、件数が増えるほど難しくなります。サロン向けの顧客管理システムには、契約の回数・金額・期限を登録し、施術のたびに消化して、残額や解約時の精算を自動で出せるものがあります。予約から顧客管理、役務消化、物販までをひとつで扱える製品もあり、消化と解約の計算を仕組みにしたいときの選択肢になります。
- いま有効な回数券・コースの未消化の残額を、合計したか
- 施術の直後に消化を記録するルールが、全員で揃っているか
- 有効期限が近い券を、一覧で出せる状態か
- 解約時の精算を、誰でも同じ手順で出せるか
回数券は、売った瞬間が利益ではありません。提供して、消化して、はじめて売上になります。未消化をその場で数えられる形にしておくと、解約でもめず、期限も取りこぼさず、預かったお金を正しく利益に変えていけます。